監修:院長 宮路 啓太
変形性膝関節症と診断され、整形外科でヒアルロン酸注射を受けている方は少なくありません。
最初は楽になっていたものの、次第に効果を感じにくくなった方や、何度注射を受けても膝の痛みが続いている方もいらっしゃるでしょう。
「このまま注射を続けてよいのだろうか」
「効かなくなったら、手術しかないのだろうか」
「PRP・PDF-FD®や幹細胞治療を考えた方がよいのだろうか」
このように悩まれている方に、まず知っていただきたいことがあります。
ヒアルロン酸注射が効かないからといって、すぐに手術や再生医療が必要とは限りません。一方で、十分な効果が得られていないにもかかわらず、同じ治療だけを漫然と続けることが最善とも限りません。
大切なのは、「注射が効くか効かないか」だけで判断するのではなく、現在の膝の痛みがどこから生じ、なぜ負担が繰り返されているのかを改めて評価することです。
ヒアルロン酸注射はどのような治療なのか
ヒアルロン酸は、もともと関節液や軟骨などに存在する成分です。
膝関節内へヒアルロン酸を注射することで、関節の滑りを改善し、衝撃を和らげ、痛みや炎症を軽減することが期待されます。
ヒアルロン酸注射は、主に変形性膝関節症に伴う痛みに対する保存療法として行われています。
ただし、ヒアルロン酸注射は、すり減った軟骨や変形した関節を元の状態へ戻す治療ではありません。基本的には、痛みや動きにくさを和らげ、日常生活を送りやすくすることを目的とした治療です。
ヒアルロン酸注射の効果は医学的にも評価が分かれている
ヒアルロン酸注射は広く行われていますが、その効果に対する評価は国内外で一様ではありません。
2021年に発表された米国整形外科学会の診療ガイドラインでは、症状のある変形性膝関節症に対して、ヒアルロン酸関節内注射を「日常的に使用することは推奨しない」としています。これは、すべての患者さんに対して安定して大きな効果が得られるとはいえないためです。
米国リウマチ学会・関節炎財団のガイドラインでも、変形性膝関節症に対するヒアルロン酸注射は条件付きで推奨されていません。質の高い研究に限定すると、関節内へ生理食塩水などを注射した場合との差が小さくなることが理由の一つです。
一方で、OARSIのガイドラインなどでは、患者さんの状態や併存疾患によっては選択肢になり得るとされています。したがって、「ヒアルロン酸注射にはまったく意味がない」と断定するのも適切ではありません。
2022年の大規模なシステマティックレビューでは、ヒアルロン酸注射はプラセボと比較して膝の痛みをわずかに軽減したものの、その平均的な差は、患者さんが実感できる最小限の差を下回っていました。つまり、集団全体で見ると効果は小さい一方で、実際の診療では効果を感じる患者さんも存在する、という理解が現実的です。

ヒアルロン酸注射が効きやすい人・効きにくい人
ヒアルロン酸注射の効果には個人差があります。
比較的軽度から中等度の変形性膝関節症では、痛みや動作が改善する可能性があります。一方で、関節の変形や軟骨の損傷が強い患者さんでは、効果が得られにくい傾向があります。
2024年のレビューでも、変形性膝関節症の重症度はヒアルロン酸注射の効果を予測する比較的一貫した因子であり、進行が軽い患者さんほど反応しやすい傾向が報告されています。
ただし、レントゲン上の変形が軽ければ必ず効くわけでも、変形が強ければ絶対に効かないわけでもありません。
膝の痛みには、軟骨だけでなく、滑膜、半月板、軟骨下骨、関節包、脂肪体、腱や筋肉、神経など、複数の組織が関係します。
そのため、単に「変形性膝関節症だからヒアルロン酸を打つ」というだけでは、痛みの原因に十分対応できない場合があります。
ヒアルロン酸注射が効かない5つの主な理由
1.痛みの中心が関節内とは限らない
ヒアルロン酸は膝関節の中へ注射する治療です。
そのため、痛みの主な原因が関節の外にある場合には、十分な効果が得られない可能性があります。
例えば、膝の内側の痛みであっても、次のような原因が考えられます。
- 鵞足部の腱や滑液包の炎症
- 内側側副靱帯周辺の負担
- 半月板の損傷
- 膝蓋下脂肪体の炎症
- 大腿四頭筋やハムストリングスの機能低下
- 股関節や足関節の動きの問題
- 腰椎や末梢神経に由来する痛み
関節外の組織が痛みの中心であれば、関節内へヒアルロン酸を注射しても改善しにくいのは不自然ではありません。実際、当院に「注射が効かない」とご相談に来られる方の膝を診ると、痛みの中心が関節の中ではなく、鵞足部やお皿の下にあるケースが少なくありません。
2.滑膜炎や関節水腫が続いている
変形性膝関節症では、関節の中に炎症が起こり、膝に水がたまることがあります。
腫れや熱感が強い状態では、ヒアルロン酸注射だけでは炎症を十分に抑えられないことがあります。
膝に水が繰り返したまる場合には、なぜ炎症が続いているのか、半月板損傷や結晶誘発性関節炎など別の病態がないかも含め、再評価が必要です。
3.関節の変形や軟骨下骨の損傷が進んでいる
変形性膝関節症が進行すると、軟骨だけでなく、その下にある軟骨下骨にも負担がかかります。
骨髄病変や骨の変化が痛みに関係している場合、関節液の環境を補うヒアルロン酸だけでは十分に改善しない可能性があります。
4.膝に負担をかける動作が変わっていない
注射によって一時的に痛みが軽くなっても、
- O脚によって膝の内側へ負担が集中している
- 股関節や足首が十分に動いていない
- 太ももや臀部の筋力が低下している
- 膝が内側へ入る歩き方をしている
- 痛みをかばう歩き方が定着している
といった問題が残っていれば、膝への負担は繰り返されます。
ヒアルロン酸注射は膝への負担そのものを自動的に修正する治療ではありません。
注射後に痛みが軽くなった期間を利用し、筋力や関節の動き、歩行を改善することが重要です。
O脚や歩き方のくせが残ったままの方では、注射で一時的に楽になっても、数週間で痛みが戻ってしまう、という経過をよく拝見します。

5.そもそも膝以外から痛みが来ている
腰椎の神経障害や股関節疾患によって、膝周辺に痛みを感じることがあります。
このような場合、膝関節だけを治療しても改善しません。
しびれ、筋力低下、腰痛、股関節の可動域制限などがある場合には、膝以外も含めて診察する必要があります。
何回打って効かなければ治療を見直すべきか
「ヒアルロン酸注射は何回まで」と、すべての患者さんに共通する明確な回数を決めることはできません。製剤や保険診療上の運用によって、1週間ごとに複数回行った後、間隔を空けて継続する場合などがあります。
重要なのは、回数そのものではなく、治療前後で何が変わったかです。
次のような場合は、同じ注射をそのまま続ける前に、診断や治療方針を見直すことをおすすめします。
- 複数回受けても痛みがほとんど変わらない
- 効果が数日しか続かない
- 徐々に効果を感じなくなってきた
- 膝の腫れや水が繰り返す
- 夜間痛や安静時痛が強くなってきた
- 歩ける距離が短くなっている
- 膝が伸びにくい、曲がりにくい
- 膝崩れやロッキングがある
- 痛みのため生活や仕事に大きな支障が出ている
ヒアルロン酸注射によって、痛み、歩行距離、階段動作などが明らかに改善しているのであれば、医師と相談しながら継続することは選択肢になります。
一方、効果が乏しい状態で同じ治療を続けるだけでは、別の原因や適切な治療時期を見逃す可能性があります。

ヒアルロン酸注射が効かないときの次の選択肢
運動療法・リハビリテーション
変形性膝関節症の治療では、運動療法が基本になります。
痛みがあるからといって動かさなくなると、筋力低下や関節可動域の低下が進み、さらに膝へ負担がかかる悪循環に陥ることがあります。
2025年に発表された217件のランダム化比較試験、1万5,000人以上を対象としたネットワークメタ解析では、複数の運動方法が膝の痛みや機能の改善に有効であり、特に有酸素運動には比較的強いエビデンスが示されました。
ただし、痛みを我慢して一律に歩けばよいわけではありません。
関節の状態、筋力、体重、歩き方に応じて、運動量や方法を調整する必要があります。
体重管理と生活習慣の見直し
体重が増えると、歩行や階段動作の際に膝へかかる負担も増えます。
体重を適正化することに加え、睡眠、栄養、血糖、喫煙、全身の炎症状態などを整えることも、運動を継続しやすい身体づくりにつながります。
体重が標準範囲である場合、無理に減量する必要はありません。
薬物療法
外用薬や内服薬を使用して、痛みを調整することもあります。
ただし、NSAIDsなどの鎮痛薬には、胃腸障害、腎機能障害、心血管系への影響などのリスクがあります。年齢や持病、併用薬を確認しながら使用することが大切です。
装具療法
膝の状態によっては、サポーターや足底板などを使用し、負担が集中する場所を調整する方法があります。
すべての患者さんに有効とは限りませんが、歩行時の痛みを軽減し、運動療法を行いやすくできることがあります。
ステロイド注射
炎症や関節水腫が強い場合、ステロイドの関節内注射が選択されることがあります。
比較的短期間の鎮痛効果が期待できる一方、頻回な投与には注意が必要です。感染や血糖上昇などのリスクも含めて判断します。
PRP・PDF-FD®療法
PRP・PDF-FD®療法は、患者さん自身の血液から血小板を多く含む成分を抽出し、膝関節内へ投与する治療です。
一部の研究では、ヒアルロン酸よりも長期間の症状改善が報告されていますが、PRP・PDF-FD®の作製方法や投与回数が研究ごとに異なり、効果の評価はまだ統一されていません。
また、質の高いプラセボ対照試験の一つでは、軽度から中等度の変形性膝関節症に対して、PRP・PDF-FD®は生理食塩水と比較して12か月後の痛みや軟骨量を有意に改善しませんでした。したがって、PRP・PDF-FD®も誰にでも確実に効く治療ではありません。
幹細胞治療
幹細胞治療では、患者さん自身の脂肪などから採取・培養した細胞を膝関節内へ投与します。
痛みや関節機能の改善が報告されている一方、投与する細胞の種類、細胞数、製造方法、患者さんの重症度などが研究ごとに異なります。
「軟骨が完全に元通りになる」「人工関節を必ず避けられる」と断定できる治療ではありません。
幹細胞治療を検討する際には、期待できる効果だけでなく、限界、リスク、費用、他の治療選択肢について十分な説明を受ける必要があります。
実際の診療でも、PRP・PDF-FD®や幹細胞治療が向く方がいる一方で、まず運動療法や身体の使い方の見直しで十分に楽になる方もいらっしゃいます。
手術療法
著しい変形や強い痛みがあり、保存療法を行っても日常生活が大きく制限されている場合には、人工膝関節置換術などの手術が適していることがあります。
手術を避けたいという希望は大切ですが、必要な手術を無理に先延ばしすることが常に正しいとは限りません。
再生医療を含めた治療法には、それぞれ得意な段階と限界があります。
SAクリニックでは「何を注射するか」だけで治療を決めません
SAクリニックでは、ヒアルロン酸注射が効かなかったという理由だけで、すぐにPRP・PDF-FD®や幹細胞治療をおすすめすることはありません。
まず、現在の痛みの原因と、膝に負担がかかり続けている背景を確認します。
私自身、内科医として全身を診てきた経験から、膝の痛みでも血流・栄養・代謝といった全身の状態まで含めて確認するようにしています。
診察では、症状の経過やこれまでの治療歴を確認したうえで、必要に応じて次のような点を評価します。
- 痛みが生じている場所と組織
- 関節水腫や滑膜炎の有無
- 半月板、腱、靱帯などの状態
- 膝関節の可動域
- 下肢の筋力と筋緊張
- O脚やアライメント
- 股関節・足関節の動き
- 立ち上がりや階段動作
- 歩行時の身体の使い方
- 腰椎や神経由来の症状
- 体組成、代謝、血流などの全身状態
問診や身体診察に加え、必要に応じて超音波検査や画像検査を組み合わせます。
そのうえで、運動療法、身体機能の改善、内服、注射、PRP・PDF-FD®、幹細胞治療、手術相談などから、患者さんの状態と希望に合う選択肢を考えます。
SAクリニックが重視しているのは、「注射をして終わり」にしないことです。
治療によって痛みが軽くなったとしても、膝へ負担をかける歩き方や筋力低下が残っていれば、再び痛みが出る可能性があります。
そのため、膝関節の環境を整える治療と、身体の使い方や歩行機能を改善する取り組みを組み合わせ、生涯にわたって自分の足で歩くことを目標に治療を設計します。
まとめ:効かなくても、すぐに手術とは限りません
ヒアルロン酸注射で十分な効果が得られない場合でも、治療の選択肢は一つではありません。
一方で、ヒアルロン酸が効かないという事実だけで、PRP・PDF-FD®や幹細胞治療が必ず効くともいえません。
重要なのは、
- 本当に膝関節内が痛みの中心なのか
- どの組織に問題があるのか
- 膝へ負担をかけている原因は何か
- 変形性膝関節症がどの程度進行しているのか
- 運動療法や手術を含め、どの方法が適しているのか
を整理することです。
注射を続けても痛みが改善しない方、手術以外の治療を検討したい方、PRP・PDF-FD®や幹細胞治療について客観的な説明を受けたい方は、一度ご相談ください。
治療を受けることを前提とするのではなく、現在の膝の状態を確認し、どのような選択肢があるのかを一緒に検討します。
※当院の診療は自由診療です。治療効果には個人差があり、すべての患者さんに同様の効果を保証するものではありません。
治療についてのご相談は、お気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
ヒアルロン酸注射を何回打っても効かない場合、もう続ける意味はありませんか?
一概にはいえませんが、複数回受けても痛みや歩行機能に変化がない場合は、同じ注射を続ける前に、痛みの原因や診断を再評価することをおすすめします。
ヒアルロン酸注射が効かないと、幹細胞治療も効きませんか?
治療の仕組みが異なるため、ヒアルロン酸が効かなかったことだけで、幹細胞治療の効果を判断することはできません。ただし、幹細胞治療も必ず効果が得られる治療ではなく、関節の状態や痛みの原因を確認したうえで適応を判断します。
ヒアルロン酸注射を受けながら運動してもよいですか?
一般的には、状態に応じた運動療法を併用することが重要です。ただし、強い腫れや痛みがある場合には、運動の種類や負荷を調整する必要があります。担当医や理学療法士などにご相談ください。
レントゲンで「軟骨がすり減っている」と言われました。幹細胞で元に戻りますか?
現時点では、幹細胞治療によってすり減った軟骨が完全に元通りになると保証することはできません。症状や機能の改善を目的として検討される治療であり、期待できる効果と限界について十分な説明を受けることが重要です。
参考文献
- American Academy of Orthopaedic Surgeons. Management of Osteoarthritis of the Knee(Non-Arthroplasty), 3rd ed. 2021.
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- Bennell KL, et al. Effect of Intra-articular Platelet-Rich Plasma vs Placebo Injection on Pain and Medial Tibial Cartilage Volume in Patients With Knee Osteoarthritis. JAMA. 2021;326:2021-2030.
- Yan L, et al. Comparative efficacy and safety of exercise modalities in knee osteoarthritis: systematic review and network meta-analysis. BMJ. 2025;391:e085242.
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