膝の人工関節手術は、進行した変形性膝関節症などに対して痛みを軽減し、歩行や日常生活の改善を目指す有効な治療です。一方で、手術後も痛みや違和感が残り、「思っていた結果と違った」と感じる方もいます。大切なのは人工関節を避けることではなく、メリットと限界を理解し、自分の膝の状態に合った治療を選ぶことです。人工関節手術で失敗と感じる例や原因、リスクを抑えるポイント、手術前に検討できる治療について解説します。
膝の人工関節手術で失敗と感じる具体例4つ
人工関節手術は、進行した変形性膝関節症などに対して痛みの軽減や関節機能の改善が期待できる治療です。実際、多くの患者さんが術後の結果に満足しています。一方、痛みや動かしにくさなどが残り、期待していた結果との違いから「失敗した」と感じるケースもあります。
| 失敗と感じる主な症状 | 考えられる主な原因 | 推奨される対策・対処法 |
|---|---|---|
| 術後の痛みが長引く・消えない | 人工関節周囲の感染症、インプラントのゆるみ・位置ズレ、周辺組織の炎症、神経性の痛みなど複数の要因。 | 自己判断で放置せず、画像検査や血液検査で原因を特定。状態に応じて薬物療法や再置換術を検討。 |
| 膝が曲がらない・伸ばせない (関節の可動域制限) | 術後の腫れや痛みの放置、関節線維症(組織の硬化)、リハビリの不足または強度の不適合。 | 医師・理学療法士の指導の下、回復時期に応じた適切な負荷で継続的に可動域トレーニングを実施。 |
| 強いグラつき・異物感がある | 人工関節特有の感覚差、靭帯のバランス不均衡、長期使用に伴う部品の摩耗や設置位置のギャップ。 | 定期受診で関節のアライメントを画像確認。膝へ急激な負担がかかる動作を避け、膝周りの筋力を維持。 |
| 手術を受けたのに痛みが不変・悪化 | 腰椎(腰の神経障害)や股関節疾患、関節周辺の筋肉・腱など、痛みの発生源が膝関節以外にある。 | 画像変形だけに囚われず、膝以外の関連部位も含めた総合再評価・セカンドオピニオンを実施。 |
※「失敗した」と感じる症状の多くは、早期の検査やリハビリ計画の見直し、適切な治療方針の再選択によって対処・改善を目指せます。違和感が続く場合は我慢せず執刀医または専門医療機関へ相談してください。
手術後の痛みが長引く
人工関節手術を受けた直後は、手術による組織への負担から痛みや腫れが生じます。通常は回復に伴って徐々に軽減しますが、一部では痛みが長期間残る場合があります。原因には感染、人工関節のゆるみや不安定性、周辺組織の炎症、神経に関連する痛みなどがあり、必ずしも一つとは限りません。痛みが続く場合は「手術が失敗した」と自己判断せず、原因を詳しく調べることが重要です。
関節の可動域が狭く曲げ伸ばししにくい
人工関節手術後に「膝が十分に曲がらない」「伸ばし切れない」と感じることがあります。術後の腫れや痛みに加え、関節周辺に硬い組織が形成される関節線維症などが関係する場合もあります。また、手術前から膝の動きが大きく制限されていた方では、術後も可動域の回復に時間を要することがあります。日常生活に必要な動きを取り戻すためには、医師や理学療法士の指示に沿って段階的にリハビリを進めることが大切です。
膝関節に違和感やぐらつきがある
痛みは改善しても、「人工物が入っている感じがする」「歩くと膝が不安定に感じる」といった違和感が残る場合があります。人工関節は傷んだ関節面を置き換える治療ですが、本来の膝関節とまったく同じ構造や感覚になるわけではありません。一方、強いぐらつきには靱帯のバランスや人工関節の位置などが関係していることもあります。症状が強い、あるいは徐々に悪化する場合は、画像検査などによる確認が必要です。
術後の感染症や炎症が引かない
人工関節手術では、まれではあるものの人工関節周囲感染が起こる可能性があります。傷口の赤みや腫れ、熱感、排液、発熱、強い痛みなどが続く場合には注意が必要です。人工関節周囲の感染は治療が長期化する場合があり、状態によっては追加手術が必要になります。なお、感染症は適切な感染対策や術後管理を行っていても完全には防げません。異常を感じた際に早めに医療機関へ相談することが重要です。
「膝の人工関節手術は失敗した…」と感じる主な原因
人工関節手術後の痛みや動かしにくさは、手術そのものだけでなく、感染、人工関節の状態、リハビリ、もともとの身体状態など複数の要因が関係します。また、画像上は問題がなくても症状が残るケースがあります。「失敗」という言葉だけで判断せず、原因を整理することが大切です。
術後管理の不備による感染症
人工関節周囲感染は、術後に注意すべき合併症の一つです。傷口の管理や基礎疾患のコントロールなどは感染リスクを抑えるうえで重要ですが、十分な感染対策を行っていても感染を完全にゼロにすることはできません。糖尿病などの基礎疾患、全身状態、手術に伴うさまざまな要因が影響する場合もあります。そのため「感染=術後管理の不備」とは限らず、発生した際に早期発見・早期治療につなげることが重要です。
人工関節の摩耗や位置のずれ・ゆるみ
人工関節は長期間の使用を想定して設計されていますが、永久に同じ状態を維持できるとは限りません。長期間使用するなかで部品の摩耗や人工関節と骨の間のゆるみなどが生じ、痛みや不安定感につながることがあります。また、人工関節の位置や関節のバランスなどが症状に関係するケースもあります。状態によっては経過観察やリハビリだけでなく、人工関節を入れ替える再置換術が検討されます。
リハビリ不足による筋肉や関節の硬化
人工関節手術は、手術が終われば治療が完了するわけではありません。術後は膝周辺の筋力が低下しやすく、痛みを避けて動かさない期間が長くなると、関節の動きが制限されることがあります。そのため、状態に応じて早期から適切な運動や歩行練習を進めることが大切です。ただし、無理に膝を曲げたり過剰な運動を行ったりすることがよいわけではありません。回復段階に合わせたリハビリを継続しましょう。
膝の軟骨や関節が痛みの原因ではなかった
膝が痛くても、原因が必ず膝関節内にあるとは限りません。腰の神経障害や股関節疾患、腱や筋肉など関節周囲の組織、神経障害などによって膝周辺に痛みを感じるケースがあります。そのような状態では、人工関節によって傷んだ関節面を置き換えても痛みが十分に改善しない可能性があります。手術を検討する段階で、画像上の変形だけでなく、実際の痛みの原因がどこにあるのかを総合的に評価することが重要です。
術前からの状態や期待値とのギャップ
人工関節手術を受けると「痛みが完全になくなる」「若い頃と同じように膝が動く」と期待する方もいるでしょう。しかし、術後にどこまで改善するかは、手術前の関節の状態や筋力、可動域、年齢、全身状態などによって異なります。本来の膝と人工関節では構造にも違いがあります。手術によって期待できることと難しいことを術前に理解し、医師と治療目標を共有しておくことが納得感のある治療につながります。
膝の人工関節手術で失敗を防ぐための対策
人工関節手術のすべての合併症を防ぐことはできませんが、術前の評価やリハビリ、術後の生活管理によってリスクを抑えられる場合があります。特に重要なのは「手術を成功させる」ことだけではなく、手術後にどのような生活を目指すのかまで考えて準備することです。
術前後のリハビリを計画的に進める
リハビリは手術後だけに行うものではなく、可能であれば術前から筋力や身体機能を整えておくことも大切です。術後は医師や理学療法士の指示に従い、膝の曲げ伸ばしや筋力トレーニング、歩行練習などを段階的に行います。痛みを我慢して過度に動かすのではなく、その時点の回復状態に適した負荷を選択することがポイントです。退院後も継続的に身体を動かし、生活機能の回復を目指しましょう。
膝に強い負担がかかる動作を避ける
人工関節手術後も身体活動は重要ですが、どのような運動でも自由に行えるとは限りません。ジャンプや急激な方向転換など膝へ大きな衝撃が加わる動作については、人工関節や周囲組織への負担を考慮する必要があります。一方で、必要以上に安静にすると筋力低下につながる可能性もあります。ウォーキングなどを含め、どの程度の活動が適しているかは術後の状態によって異なるため、担当医に確認しましょう。
本当に手術が必要な状態か確認を取る
画像で変形性膝関節症が進行しているからといって、すべての方が直ちに人工関節手術を受けるわけではありません。痛みの程度や歩行能力、日常生活への影響、これまで行った保存療法の効果などを踏まえて判断します。反対に、変形が高度で生活への支障が大きい場合には、人工関節が有力な選択肢になることがあります。「手術をする・しない」から考えるのではなく、自分の状態にどの治療が適しているかを確認することが大切です。
膝の人工関節手術での失敗を避ける病院選びのコツ
人工関節手術を検討する際は、手術方法だけでなく、術前評価からリハビリ、退院後のフォローまで含めて医療機関を確認しましょう。医師から十分な説明を受け、自分が納得したうえで治療を選択できる環境かどうかも重要な判断材料になります。
症例実績が豊富な専門医を確認する
病院を選ぶ際は、膝関節疾患や人工関節手術を専門的に診療している医師がいるか確認しましょう。単純な手術件数だけで優劣を決めることはできませんが、どのような患者を対象に手術を行っているのか、合併症への対応や再手術にも対応しているのかなどは確認したいポイントです。日本整形外科学会専門医などの資格も参考になります。手術方法のメリットだけでなく、合併症や限界についても説明してくれる医師を選ぶことが大切です。
術後のアフターケア体制をチェックする
人工関節手術では、術後のリハビリや経過観察まで含めて治療を考える必要があります。入院中のリハビリだけでなく、退院後にどのようなフォローを受けられるか確認しましょう。痛みや腫れ、可動域の低下などが生じた際の相談先も重要です。また、長期的には人工関節の状態を確認するため定期的な診察や画像検査が行われる場合があります。手術後も継続して相談できる体制があると安心です。
セカンドオピニオンを積極的に活用する
人工関節手術を提案されても、判断に迷う場合は別の医師から意見を聞く方法があります。特に「本当に今手術が必要なのか」「手術以外の方法は残っていないのか」「部分置換と全置換のどちらが適しているのか」など疑問がある場合には、セカンドオピニオンが役立ちます。別の医師に相談することは、最初の医師を否定する行為ではありません。複数の情報を整理し、納得して治療を決めるための方法の一つです。
膝の人工関節手術を受ける前に知っておきたい治療の選択肢
変形性膝関節症の治療には人工関節手術以外にも複数の方法があります。ただし、どの治療が適しているかは変形の程度や症状、年齢、生活状況によって異なります。手術を必要以上に避けるのではなく、それぞれのメリット・限界を理解して治療の順序を検討しましょう。
| 項目 | 人工関節置換術 | 保存療法 (薬・ヒアルロン酸注射・リハビリ) |
再生医療 (PRP療法・幹細胞治療) |
|---|---|---|---|
| 治療の主な目的 | 傷んだ関節面を切除し人工物に置き換え、変形と痛みを根本改善する | 痛みの緩和と症状悪化の抑制(痛みの管理) | 炎症の抑制および自身の細胞による自己修復力の向上と痛み軽減 |
| 身体への侵襲・入院 | 高(手術が必要)入院期間:2週間〜1ヶ月程度(リハビリ含む) | 極めて低入院不要(外来通院のみ) | 低〜中原則日帰り(採血や脂肪採取+関節内注射) |
| 失敗・後悔のリスク | 感染症、ゆるみ、違和感の残存、リハビリ不足による可動域制限などの合併症リスクがある | 軟骨の変形自体は改善しないため、進行に伴い痛みが再発・悪化することがある | 進行しすぎた変形には効果が乏しい場合があり、効果に個人差が存在する |
| 主なメリット | 変形が極度に進んだ状態でも、劇的な痛み改善と歩行能力向上が期待できる | 保険適用で費用を抑えられ、身体への負担が少なくすぐに開始できる | 切らずに治療でき、身体への負担が少ない。将来の人工関節の回避・延期を目指せる |
| 適している方 | 軟骨がすり減り関節の変形が極度に進み、日常生活に著しい支障がある方 | 発症初期〜中等度で、まずは身体に負担の少ない方法で経過を見たい方 | 「人工関節の失敗が不安」「手術や長期入院を避けたい」が保存療法で効果が出ない方 |
※各治療法には一長一短があり、膝の変形度合いや生活環境によって最適な選択肢は異なります。「人工関節の手術失敗」が不安な場合は、手術を決断する前に保存療法や再生医療も含めて専門医へご相談ください。
薬物療法・ヒアルロン酸注射・運動療法
変形性膝関節症では、状態に応じて鎮痛薬などの薬物療法や運動療法、体重管理、装具などを組み合わせます。ヒアルロン酸の関節内注射が行われることもありますが、その位置づけはガイドラインなどによって異なります。これらは主に痛みを軽減し、日常生活を維持することを目的とした治療です。変形した関節を元通りにする治療ではないため、症状や進行度を確認しながら継続するか、別の治療へ移行するかを判断します。
再生医療(PRP・幹細胞治療)
PRP療法や自己脂肪由来幹細胞などを用いた再生医療が、変形性膝関節症に対する選択肢として提供されています。自身の血液や細胞などを利用し、関節内の環境に働きかけて痛みや機能の改善を目指す治療です。ただし、人工関節と同じ効果を得られる治療ではなく、進行した変形を元通りにしたり、人工関節が必要な状態を必ず回避できたりするものでもありません。治療法ごとにエビデンスの確立度も異なるため、期待できる効果と限界について説明を受けることが大切です。
膝の人工関節手術で失敗が不安なら再生医療も検討しよう
「人工関節を勧められたものの、できれば手術以外の選択肢も確認したい」という場合には、再生医療について医師へ相談する方法があります。ただし、再生医療が人工関節手術より優れているという意味ではありません。膝の状態によっては人工関節が適しているため、治療適応を正しく見極める必要があります。
自分の細胞を活用して痛みを軽減する
再生医療には、血液から血小板を多く含む成分を抽出して使用するPRP療法や、自身の脂肪組織などから採取・培養した細胞を利用する治療があります。治療法によって仕組みは異なりますが、関節内の炎症や組織環境に働きかけ、痛みや機能の改善を目指します。一方、効果には個人差があり、すべての変形性膝関節症に適しているわけではありません。画像検査や診察によって治療適応を確認することが必要です。
身体への負担を抑えて治療できる
人工関節手術では傷んだ関節面を切除し、人工物に置き換えるため、一定の入院期間や術後リハビリが必要になります。一方、PRP療法や幹細胞を用いた治療は、一般に人工関節置換術と比較すると身体への侵襲が小さいことが特徴です。ただし、採血や脂肪採取、注射などに伴う痛み、腫れ、出血、感染などのリスクはあります。「手術ではないから安全」と考えず、それぞれの治療に伴うリスクまで確認して選択しましょう。
入院不要で日常生活を継続しやすい
PRP療法や一部の幹細胞治療は、入院を必要とせず外来で行える場合があります。そのため、仕事や家庭の事情で長期間の入院が難しい方にとって検討しやすいことがあります。ただし、治療後すぐに激しい運動ができるとは限らず、一定期間は負荷を調整する必要があります。また、再生医療を受けたことで将来の人工関節手術が不要になるとは限りません。生活への影響だけでなく、長期的な治療計画を含めて検討することが大切です。
膝の人工関節手術で失敗を防ぎ納得のいく治療を選ぼう
膝の人工関節手術は、進行した変形性膝関節症などに対して痛みを軽減し、歩行能力や日常生活を改善することが期待できる重要な治療です。多くの患者さんが術後の結果に満足しており、「人工関節=失敗しやすい治療」と考える必要はありません。
一方で、すべての患者さんが同じ結果になるわけではなく、術後も痛みやこわばり、違和感が残る場合があります。感染症、人工関節のゆるみや不安定性、リハビリの状況、膝以外にある痛みの原因など、結果に影響する要素もさまざまです。
重要なのは、人工関節手術を避けること自体を目的にするのではなく、「今の膝にとって何が適切なのか」を考えることです。
保存療法を続ける方法もあれば、再生医療を検討できる場合もあります。反対に、変形が高度で日常生活への支障が大きく、ほかの治療で十分な改善が得られない場合には、人工関節手術が適した選択肢になることもあります。
手術によって期待できる効果と限界、手術を行わない場合の見通し、それ以外の治療選択肢について医師から説明を受け、納得したうえで治療方針を決めましょう。
ご相談・お問合せ
SAクリニックでは、膝関節の痛みに対して、現在の症状や画像所見、これまで受けてきた治療などを確認したうえで、治療の選択肢をご案内しています。
人工関節手術を勧められたもののほかの治療方法も確認したい方、ヒアルロン酸注射などを続けても痛みが改善しない方、PRP・PDF-FD®や幹細胞治療について客観的な説明を受けたい方は、一度ご相談ください。
当院では「人工関節を避けること」そのものを治療の目的とは考えていません。人工関節は、適応のある患者さんにとって痛みや機能の改善が期待できる非常に有効な治療です。
大切なのは、現在の膝の状態を正しく把握し、保存療法、再生医療、人工関節を含めた選択肢のなかから、ご自身に合った治療を考えることです。治療を受けることを前提とせず、今どのような選択肢があるのかを一緒に検討します。
※当院の診療は自由診療です。再生医療の治療効果には個人差があり、すべての患者さんに同様の効果を保証するものではありません。また、膝の状態によっては人工関節手術などの外科的治療が適している場合があります。
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宮路 啓太 (みやじ けいた)
略歴
- 2013年私立ラ・サール高等学校 卒業
- 2019年神戸大学医学部医学科 卒業 / 加古川中央市民病院 初期臨床研修
- 2021年加古川中央市民病院 循環器内科
- 2024年隠岐医院 漢方内科 / 再生医療専門クリニックにて幹細胞治療に従事
- 2026年SAクリニック 院長
資格・所属学会
【資格】 医師免許(2019年取得) / 内科専門医
【所属学会】 日本内科学会、日本循環器学会、日本整形外科学会、日本抗加齢医学会、日本再生医療学会
監修者メッセージ
再生医療・内科・漢方の経験を融合し、単に痛みを抑えるだけでなく、全身のコンディションを整えて「生涯ずっと自分の足で歩き続ける」ための医療をご提案します。長引くお悩みも諦めずにご相談ください。

